昔々、小牧山に吉五郎というキツネの大親分が住んでいました。 なかなかのひょうきんギツネで、人をひどく苦しめるようなことはしなかったので、狩人たちもこの古ギツネを捕まえようとはしませんでした。
ある日、小牧山の近くの村でお嫁入りがあり、親戚や近所の人々がおよばれに集まりました。また、その日のお嫁入りは夕方だったので、みんなはお酒を飲み、ごちそうを食べているうちにすっかり暗くなってしまいました。
親戚の一人である横兵さんは「ああ、こんなに遅くなってしまった。家族がごちそうを待っとるで、早く帰らなくちゃあ…」と挨拶もそこそこに、お嫁入りでもらったたくさんのごちそうを抱えて、ほろ酔い気分で帰り道を歩き始めました。人家も人通りもない暗い道を急いでいると、ひとりのきれいな娘さんに追いついてしまいました。「もしもし、こんな夜道を若い女の人がひとりで歩くのは危ないですよ。送ってあげましょう」と横兵さんが声をかけると、色の白い面 長なその娘さんはにっこり笑って、「ご親切にありがとうございます…」と頭を下げました。
ふたりが並んで道を歩いていると、時々柔らかい毛のようなものが横兵さんの手にふわっと触れることがありました。横兵さんは、娘さんが私と手をつなごうとしているのだと思い、ちょっとだけ有頂天になっていました。すると、道の向こうに光った池が見えてきました。急いで歩いていたのと、娘さんの手が触れるのにとても緊張して汗びっしょりになっていた横兵さんは、「わし、あの池で水浴びしますで、あんた、ちょっと向こうをむいとってくれんかの?」と娘さんに頼みました。すると娘さんはちょっと恥ずかしそうにしながら、草むらに身を隠しました。そうして水浴びを始めた横兵さんは、お酒の酔い心地とさわやかな水の肌触りにすっかりいい気分になって、鼻歌を歌っているうちに岸の草にもたれてウトウトと眠り込んでしまったのです。
東の空の明るさと寒さにふと目を覚ますと、あの美しい娘さんはおろか、水浴びをしていたはずの池もありません。横兵さんは、なんと田んぼの真ん中で裸のままはいつくばっていたのです。さらによく見ると池だと思っていたのは悲しいことに「肥だめ」で、家に持って帰るはずのごちそうはどこにもありませんでした。あの娘さんは、実はあのキツネの大親分吉五郎が化けたものだったのです。 そうやって、吉五郎は時々人を化かすことがありましたが、やっぱりひょうきんギツネでとても人気があったそうです。でも、このいたずらって笑って許されるのかな?!
<出典:水野茂雄氏『小牧山の今昔』> |